牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第3回
第3回:はっぴいえんど「春よ来い」
~ハイレゾの“空気感”で、新たなはっぴいえんど~
はっぴいえんどの2枚のオリジナル・アルバムがハイレゾ化された。当時から、はっぴいえんどを聴いてきた方、あとから、はっぴいえんどを聴いた方、どちらにとってもうれしいニュースである。
僕などはあとから聴いた方なので、ハイレゾの音が「はっぴいえんどデビュー」としてもいいかもしれない。そんな僕がはっぴいえんどについてエッセイを書くのも気が引けるが、はっぴいえんどのハイレゾを聴いて書かずにはおれなかったのである。
もちろん、はっぴいえんどは昔から知っていた。しかし当時は、“日本語ロックの黎明期”と言われていた。はっぴいえんどは、一部のマニアしか手を出さなかったと思う。僕が聴いたのも、当時高校生だった兄貴が買ってきた解散コンサートのLPくらい。キャラメル・ママや細野晴臣のソロアルバムもあったが、それ以上は手がでなかった。
はっぴいえんどを、あらためて認識させられたのはメンバーのソロ活動を通じてだ。『A LONG VACATION』の大瀧詠一、YMOの細野晴臣、『BAND WAGON』の鈴木茂、人気作詞家の松本隆。ホント凄いメンバーだった。こうして、はっぴいえんどの2枚のアルバムが、がぜん輝きだしたのである。
ということで今回の一本釣りは、はっぴいえんどの「春よ来い」である。
ファーストアルバム『はっぴいえんど』の第1曲目「春よ来い」を聴けば、96k/24bitのハイレゾのパワーを感じると思う。アナログのような厚みがある音。迫力も増した。70年代の古色を洗い流した現代的なサウンドになっている。
確かにイギリスのMETROPOLISでデジタルリマスターされた効果もあると思う。でも同じリデジタルリマスターでもCDの音と聴きくらべると音の柔らかさが違う。ハイレゾがいかに素晴らしいか分かる。
でもハイレゾの聴きどころは音の厚み以上に、“空気感”にあると思う。ひとつひとつの楽器音がベッタリとくっつかず、立体的に広がり、各音のまわりには、目に見えないけれどエアーのようなものを感じるのだ。ヘッドフォンではちょっと難しいかもしれないが、スピーカーで聴いたら分かってもらえると思う。
この“空気感”が、「おしょおがつ、といええば~、こたつぉ~、かこんでぇ~」という松本隆の何とも言えない歌詞と融合することで、「春よ来い」はいままでにない感動となった。これは“日本語ロックの黎明期”の音楽ではない。当時彼らが影響されていたバッファロー・スプリングフィールドと“タメ”ではないかとさえ思う。セカンドアルバム『風街ろまん』の「風をあつめて」や「夏なんです」のような、アコースティックなミディアムテンポの曲でも同様な感想を持った。
ハイレゾで、はっぴいえんどの残した2枚のオリジナル・アルバムが、ついに“永遠の命”を得たようである。ずっとはっぴいえんどを聴いてきた方、あとからはっぴいえんどを聴いた方、どちらにとっても、新たなはっぴいえんどに出会えるだろう。
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「春よ来い」など収録の1stアルバム
『はっぴいえんど』
「風をあつめて」など収録の2ndアルバム
『風街ろまん』